――本日はお忙しいなか、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。昨年夏に政権交代があり、医療政策・制度等も新たな方向に転換していくことが与党連立合意で確認されました。2月初旬の現時点ではまだ明確になっていない部分もあり、4月実施の診療報酬改定等に向けて具体化していくものと思われますが、今回の政権交代の過程では民主党のマニフェストが大いに注目されました。我々の場合、最終的に診療報酬がどう改定されるかという点に関心が行くわけですが、すべての項目が実現しているわけではないにしても幾つかマニフェストに基づいてやろうとしていることが窺えます。まあ、4年かけてやると言っていますから、1年目、2年目と、徐々にマニフェストの精神が発揮されていくのだろうと思います。
まず、この民主党マニフェストに示された医療政策の概要、あるいは実現への道筋をどのようにご覧になっているかというところからお話を始めていただければと思います。
鈴木 現状を見るかぎり「肩透かし」を食らった感がありますね。今回の政権交代劇におけるマニフェスト導入の背景からお話し申し上げますと、政権交代すれば10年ぶりに全体でプラス改定が実現できる、そういった公約で政権を担ったわけです。まず自民党が小泉政権時代に打ち出した「骨太の方針2006」というものがあり、年々増加していた社会保障費を年間2,200億円ずつ削減していき、5年間で1兆円抑制するという話が打ち出されて大変驚かされたわけですが、民主党案はこの「骨太の方針」の中に盛り込まれた医療費の削減目標を撤廃することを明らかにし、逆に医療費の大幅な増額ということを示したわけです。
実情はどうなっているかと言いますと、よく比較対照されて出てまいりますOECD先進諸国との比較で、現在の医療費の総額というのは対GDP比で8.1%なんですね。この数字というのは決して高くない水準で、OECD諸国の中では26位に位置しています。
皆さんもよくご存じと思いますが、イギリスの例を見ますと、トニー・ブレアが政権を取ったときには対GDP比の比率でイギリスの医療費は7.8%だったんですね。それが、選挙公約を守り通しまして、今では日本を上回り約8.3%であったと記憶しています。この医療費の伸びというのは大変なもので、公約どおり実現させたわけです。その過程でイラク戦争への参戦を表明し、ヤリ玉に挙げられたにもかかわらず、再選を果たしています。
実はトニー・ブレア政権の再選の背景に、こういった先進諸外国と対比しまして医療費だとか社会福祉のほうに力を入れたということが功を奏したのではないかというふうに考えられています。この点、民主党のマニフェストではOECD諸国平均の8.9%まで引き上げるというふうに記載されていました。平成22年度の診療報酬改定がその最初の段階となるわけですが、医療業界の期待に反しまして全体で0.19%の引き上げに留まっています。これは1月末段階での見通しであり、これから年度末に向け正確な数字が固まっていくと思いますが、この0.19%というのがどれぐらいの予算額にあたるかと言いますと約5,700億円、医科本体では1.74%の増になり、金額にして4,800億円ということになります。これは当初の引き上げ予想額を大幅に下回っておりまして、やはり「肩透かし」を食らったなという雰囲気が医療業界全体に漂っているのではないでしょうか。
――日本の医療費の対GDP比は8.1%で、イギリスは現在8.3%になっており、OECD諸国の平均は8.9ということですが、小泉さんのときの社会保障費の年2,200億円カットというのは、現実には老齢人口の自然増があるわけですから、実質上はものすごいカットになっていたわけですね。国民は額面どおり2,200億円と受け止めていますが、同じ医療をするコストを考えると2,200億円どころではありません。
OECD諸国の平均的な老齢化率というのか、全人口に老人が占める比率の伸びよりも日本のほうが遙かに高いですから、自然増の老齢化率を掛けると、OECD諸国の平均値どころか、それよりも0.5とか、大きな数字になるんですね。そのあたりも、我々は何気なく数字だけを捉えて、OECD諸国の中の何番目といったふうにだけ見ていますが、実際にはそうした点をつい見過ごしてしまいがちです。OECD諸国の実質上の医療ニーズ対医療費用をGDP比で掛けて、いわば「真水状態」での医療費序列というものを導かないといけないのに、どこからもそういうものは出てきません。そうすると日本は、OECD諸国の平均値8.9に近い、平均レベルの医療をしようと思ったら、GDP比が実質9.5%ぐらいまでの医療費を見ておかないといけないのではないかと思ったりしますが、そういう議論というのは国会議員の間でも出てこないのでしょうかね。
鈴木 やはりそういう数字を作っているのは官僚ですから、うまいこと数字のマジックのようなことでごまかされてしまうのかもしれませんね。 実は今おっしゃったようなことはいろいろなところに影響が出ておりまして、やはり小泉政権のときの毎年2,200億円の削減がどこに来たかと言えば、やはり入院の抑制とか患者さんの自己負担、これも段階的に上げられてきました。国の言うことは、例えば3割負担にしても、本来3割負担であったと、しかし財源的に潤沢であったものですから、社会保険だと1割負担でやってこれた、という話なんですね。ところが、その”いい時代”には、日本の医療というのは世界中から注目されていたわけでして、そのしくみを導入しろということで積極的に真似る国もあったほどです。北欧の諸国もそうですし、イギリスもまたそうなんですね。アメリカもある意味ではそうでした。その急先鋒が今のヒラリー・クリントンだったと思うのですが、今や大手の製薬メーカーから献金を受けるようになりまして、言っていることが当時とは全然変わってしまい、そのアメリカ型のマネージド・ケアというものを日本にどんどん推し進めている。政権が変わっても、ヒラリーさんが推しているような状況になっています。アメリカの悪いところがどんどん日本に入って来ている、そんな印象があるんですね。
先進諸外国がどんな現状になっているのかと言いますと、カナダなど消費税が20%近くあり、非常に高いのですが、医療費が全くかからないんですね。イギリスも同様です。イギリスはブレア政権が予算取りをしっかりした結果、医療にかかわる雇用もたくさん創り出せたんですね。今は医療費はかかりませんし、ある程度所得が低い人に関しては、退院をするとき交通費が支給されたりしています。いわゆる精算窓口で何をやっているかというと、国民が財布からお金を出して支払いをするのではなく、所得の低い人が交通費をもらう窓口になっています。
こうしたことは日本のマスコミでは全く報じられていないんですね。ああいう姿を様々なメディアが積極的に取り上げていけば、やはり財源は消費税ということにしかならないと思うのです。財源を確保しないでおいて何か予算を取るというのは、誰が考えてもダメな話です。
4月診療報酬改定の意味するところと医業経営(上)
――本日はお忙しいなか、貴重なお時間を割いていただき、ありがとうございます。昨年夏に政権交代があり、医療政策・制度等も新たな方向に転換していくことが与党連立合意で確認されました。2月初旬の現時点ではまだ明確になっていない部分もあり、4月実施の診療報酬改定等に向けて具体化していくものと思われますが、今回の政権交代の過程では民主党のマニフェストが大いに注目されました。我々の場合、最終的に診療報酬がどう改定されるかという点に関心が行くわけですが、すべての項目が実現しているわけではないにしても幾つかマニフェストに基づいてやろうとしていることが窺えます。まあ、4年かけてやると言っていますから、1年目、2年目と、徐々にマニフェストの精神が発揮されていくのだろうと思います。
まず、この民主党マニフェストに示された医療政策の概要、あるいは実現への道筋をどのようにご覧になっているかというところからお話を始めていただければと思います。
現状は「肩透かし」を食らった感がある
鈴木 現状を見るかぎり「肩透かし」を食らった感がありますね。今回の政権交代劇におけるマニフェスト導入の背景からお話し申し上げますと、政権交代すれば10年ぶりに全体でプラス改定が実現できる、そういった公約で政権を担ったわけです。まず自民党が小泉政権時代に打ち出した「骨太の方針2006」というものがあり、年々増加していた社会保障費を年間2,200億円ずつ削減していき、5年間で1兆円抑制するという話が打ち出されて大変驚かされたわけですが、民主党案はこの「骨太の方針」の中に盛り込まれた医療費の削減目標を撤廃することを明らかにし、逆に医療費の大幅な増額ということを示したわけです。
実情はどうなっているかと言いますと、よく比較対照されて出てまいりますOECD先進諸国との比較で、現在の医療費の総額というのは対GDP比で8.1%なんですね。この数字というのは決して高くない水準で、OECD諸国の中では26位に位置しています。
皆さんもよくご存じと思いますが、イギリスの例を見ますと、トニー・ブレアが政権を取ったときには対GDP比の比率でイギリスの医療費は7.8%だったんですね。それが、選挙公約を守り通しまして、今では日本を上回り約8.3%であったと記憶しています。この医療費の伸びというのは大変なもので、公約どおり実現させたわけです。その過程でイラク戦争への参戦を表明し、ヤリ玉に挙げられたにもかかわらず、再選を果たしています。
実はトニー・ブレア政権の再選の背景に、こういった先進諸外国と対比しまして医療費だとか社会福祉のほうに力を入れたということが功を奏したのではないかというふうに考えられています。この点、民主党のマニフェストではOECD諸国平均の8.9%まで引き上げるというふうに記載されていました。平成22年度の診療報酬改定がその最初の段階となるわけですが、医療業界の期待に反しまして全体で0.19%の引き上げに留まっています。これは1月末段階での見通しであり、これから年度末に向け正確な数字が固まっていくと思いますが、この0.19%というのがどれぐらいの予算額にあたるかと言いますと約5,700億円、医科本体では1.74%の増になり、金額にして4,800億円ということになります。これは当初の引き上げ予想額を大幅に下回っておりまして、やはり「肩透かし」を食らったなという雰囲気が医療業界全体に漂っているのではないでしょうか。
――日本の医療費の対GDP比は8.1%で、イギリスは現在8.3%になっており、OECD諸国の平均は8.9ということですが、小泉さんのときの社会保障費の年2,200億円カットというのは、現実には老齢人口の自然増があるわけですから、実質上はものすごいカットになっていたわけですね。国民は額面どおり2,200億円と受け止めていますが、同じ医療をするコストを考えると2,200億円どころではありません。
OECD諸国の平均的な老齢化率というのか、全人口に老人が占める比率の伸びよりも日本のほうが遙かに高いですから、自然増の老齢化率を掛けると、OECD諸国の平均値どころか、それよりも0.5とか、大きな数字になるんですね。そのあたりも、我々は何気なく数字だけを捉えて、OECD諸国の中の何番目といったふうにだけ見ていますが、実際にはそうした点をつい見過ごしてしまいがちです。OECD諸国の実質上の医療ニーズ対医療費用をGDP比で掛けて、いわば「真水状態」での医療費序列というものを導かないといけないのに、どこからもそういうものは出てきません。そうすると日本は、OECD諸国の平均値8.9に近い、平均レベルの医療をしようと思ったら、GDP比が実質9.5%ぐらいまでの医療費を見ておかないといけないのではないかと思ったりしますが、そういう議論というのは国会議員の間でも出てこないのでしょうかね。
鈴木 やはりそういう数字を作っているのは官僚ですから、うまいこと数字のマジックのようなことでごまかされてしまうのかもしれませんね。
実は今おっしゃったようなことはいろいろなところに影響が出ておりまして、やはり小泉政権のときの毎年2,200億円の削減がどこに来たかと言えば、やはり入院の抑制とか患者さんの自己負担、これも段階的に上げられてきました。国の言うことは、例えば3割負担にしても、本来3割負担であったと、しかし財源的に潤沢であったものですから、社会保険だと1割負担でやってこれた、という話なんですね。ところが、その”いい時代”には、日本の医療というのは世界中から注目されていたわけでして、そのしくみを導入しろということで積極的に真似る国もあったほどです。北欧の諸国もそうですし、イギリスもまたそうなんですね。アメリカもある意味ではそうでした。その急先鋒が今のヒラリー・クリントンだったと思うのですが、今や大手の製薬メーカーから献金を受けるようになりまして、言っていることが当時とは全然変わってしまい、そのアメリカ型のマネージド・ケアというものを日本にどんどん推し進めている。政権が変わっても、ヒラリーさんが推しているような状況になっています。アメリカの悪いところがどんどん日本に入って来ている、そんな印象があるんですね。
先進諸外国がどんな現状になっているのかと言いますと、カナダなど消費税が20%近くあり、非常に高いのですが、医療費が全くかからないんですね。イギリスも同様です。イギリスはブレア政権が予算取りをしっかりした結果、医療にかかわる雇用もたくさん創り出せたんですね。今は医療費はかかりませんし、ある程度所得が低い人に関しては、退院をするとき交通費が支給されたりしています。いわゆる精算窓口で何をやっているかというと、国民が財布からお金を出して支払いをするのではなく、所得の低い人が交通費をもらう窓口になっています。
こうしたことは日本のマスコミでは全く報じられていないんですね。ああいう姿を様々なメディアが積極的に取り上げていけば、やはり財源は消費税ということにしかならないと思うのです。財源を確保しないでおいて何か予算を取るというのは、誰が考えてもダメな話です。